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米SECアトキンス委員長が示すDeFi規制の新方針:自由・明確化・協働による米国の転換点と展望

  • 執筆者の写真: Oshima
    Oshima
  • 6月17日
  • 読了時間: 5分

2025年、米国のデジタル資産規制において歴史的な転換点が訪れました。トランプ政権の復帰に伴い、ポール・アトキンス氏が新たに米国証券取引委員会(SEC)の委員長に就任し、分散型金融(DeFi)に対するSECの姿勢が大きく転換しました。長らく「エンフォースメント」が続いた同分野において、透明性あるルールメイキングへの移行が打ち出され、DeFi業界のみならず米国のデジタル経済全体に波紋を広げています。

アトキンス委員長の公式発言、提案された政策の方向性、関係各所の反応、今後のタイムラインを詳細に解説し、DeFiと米国規制の未来を展望したいと思います。

1. 背景と発言の概要

◆ 政権交代とSECの新体制

2025年の米国大統領選での政権交代により、デジタル資産政策の中枢にも大きな変化が生じました。前バイデン政権下ではゲンスラーSEC委員長が暗号資産に対して厳格な姿勢をとり、多くのプロジェクトが訴訟や調査の対象となりました。

これに対し、2025年4月に委員長に就任したアトキンス氏は、長年の金融規制経験を持ちながらも、イノベーション重視の姿勢で知られています。彼の就任は、「ルール不在で業界を萎縮させる時代」から「予見可能性あるルール作りの時代」への移行を象徴するものと受け止められています。

◆ 公式発言の場:「DeFiとアメリカ精神」

2025年6月9日、SECの暗号資産タスクフォースが主催した第5回公開会議「DeFiとアメリカ精神」において、アトキンス氏は初めてDeFi規制方針に関する明確なビジョンを提示しました。この会議には、ヘスター・パース、マーク・ウエダ、キャロライン・クレンショー各SEC委員に加え、ShapeShiftのエリック・ボーヒーズ氏など業界有識者も参加し、活発な議論が交わされました。

アトキンス氏は開会挨拶で「DeFiは、経済的自由、自己責任、仲介者の排除といった米国の根本的価値観に基づいており、抑圧ではなく支援されるべき存在である」と述べ、大きな反響を呼びました。

2. アトキンス委員長の発言要点と政策の方向性

◆ ゲンスラー路線からの明確な転換

アトキンス氏は、前政権下でのSECの姿勢に対し強い懸念を表明。特に、DeFiプロジェクトを無理やり証券規制に当てはめようとするアプローチに対し、「法的根拠が曖昧なまま、訴訟によってルールを作ることは適切ではない」と批判しました。

彼は、CorpFin(企業金融部)による最近の見解「マイナー、バリデーター、ステーキング提供者は証券取引の主体ではない」という判断を称賛し、これを単なる職員見解に留めず、正式なSEC規則として明文化するべきだと強調しました。

◆ 自己カストディとソフトウェア開発者の自由

ブロックチェーンによって可能となった「資産の自己保管権」について、アトキンス氏は「米国建国以来の自由の象徴」とまで言及。これをオンラインで活動するという理由で放棄させられてはならないと述べました。

また、ウォレットやDEXのコード開発者に対する規制の動きについては、「表現の自由に関わる問題だ」と指摘。例えば、自己管理型ウォレットを作った開発者を、悪用された際にブローカーとして責任追及する動きに対し、「銃を作った職人が強盗の責任を負わないのと同じ」と反論しました。

◆ DeFiの実証されたレジリエンス

アトキンス氏は、2022年のCeFiプラットフォーム破綻を引き合いに出し、「中央集権的な金融が機能不全に陥った中で、AaveやUniswapといったDeFiプロトコルは設計通り稼働を続けた」と言及。これは単なる理論ではなく、実証された金融モデルであるとの評価を下しました。

3. 提案された規制の方向性

◆ ルールメイキングによる透明性の確保

  • ステーキング、バリデーション、マイニングなどの活動を証券規制の対象外とする正式ルールを策定予定

  • 従来の曖昧な取り扱いを排し、業界の予見可能性と法的安定性を確保

◆ DeFi対応型の制度改正

  • 現行の証券取引所定義を見直し、スマートコントラクトによるオンチェーン取引を制度内に組み込む方針

  • ブローカー、カストディ、注文処理等の定義も見直され、DeFi環境に適した形に調整される見込み

◆ イノベーション免除(Innovation Exemption)の導入

  • 一時的・条件付きで新サービス提供を許容するサンドボックス的制度

  • 開発者が「先に作ってから登録」できる制度として、起業促進効果が期待される

◆ 投資家保護との両立

  • 情報開示、AML対策、不正防止は維持しつつ、過剰規制を避けるバランス型モデルを模索

  • リスクベース・技術中立の原則を重視し、過度に特定の技術や運用形態を押し付けない

4. SEC内・議会・業界からの反応

◆ SEC内部での意見の多様性

  • パース委員:過剰な規制には慎重だが、DeFi-In-Name-Only(名ばかりの分散化)には警戒感を示す

  • ウエダ委員:「未知の領域への探検」と称し、柔軟で探究的アプローチを推奨

  • クレンショー委員:公開コメント付きのルールメイキング手続きの徹底を要求

◆ 米議会との連携

  • 下院:CLARITY法案でCFTCへの権限移譲を進め、SECの裁量縮小を狙う

  • 上院:GENIUS法案でステーブルコインなどの定義明確化を推進中

  • 超党派で進む規制整備により、法的安定性の担保が期待されている

◆ DeFi業界からの歓迎と提案

  • ボーヒーズ氏:「かつて召喚状を受けたSECに講演を依頼される日が来るとは」とコメント

  • 開発者ら:ZK技術などを使ったプライバシーとコンプライアンスの両立に向けた提案

  • 共通の要望:技術中立性、コード開示の自由、過度な中央集権的強制の排除

5. 今後の政策プロセスと見通し

時期

主な動き

2025年4月

アトキンス氏がSEC委員長に就任

2025年6月9日

DeFi規制明確化の方針を公式表明

2025年6月12日

ゲンスラー時代の規制案を正式撤回

2025年後半

新たなルール案を起草・提案へ(ステーキング、取引所定義改正など)

2026年前半

パブリックコメントを経て、規則施行開始予定

結論

アトキンスSEC委員長のDeFi規制明確化方針は、単なる規制緩和ではなく、「規制の予見可能性」と「イノベーションの自由」を同時に追求する現実的アプローチです。長年の不透明な環境から脱却し、米国を再びWeb3技術の中心地に押し上げる試みとして、業界からも政治からも注目を集めています。

これからの1~2年は、SECと業界、そして議会が真に連携して新たな枠組みを築けるかの試金石です。その過程は、日本を含む他国の規制設計にも大きな影響を与えると予想され、グローバルな視点からも注視が必要です。 エックスウィン株式会社代表 ブロックチェーン推進協会 DeFi部会長 荒澤文寛

 
 
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